HBのとってもくわしいドラムレビュー

HBのとってもくわしいドラムレビュー

ドラムスコHBがさまざまな楽曲のドラムプレイをとってもくわしく解説する

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空と Jeff Porcaro - Mushanga のあいだには

 

Jeff Porcaro - Instructional Video

YouTubeでドラムプレイ映像を確認することはとても有用である。気になったプレイを自分の糧にするうえでこれほどパワフルなことはない、と前回改めて確認した。

前回の記事はコチラ 

そのため時間の許す限りチェーン視聴(映像終了後のサムネイルを次々とクリックして連続して見ていくこと)をしたところ、Jeff Porcaroの映像をいくつか発見。こちらの映像に特に強く興味を惹かれたのでくわしく確認してみたい! 

Jeff Porcaroからの貴重な教えを記録したものである。16ビートのハイハットを両手ではなく片手でやるとイイね!(7:10頃)などなど、参考になるコンセプトが紹介されている。その中でも、今回TotoのアルバムThe Seventh Oneに収録の楽曲Mushangaの基本パターンを解説している箇所に注目してみたい。 

ザ・セブンス・ワン~第7の剣~

ザ・セブンス・ワン~第7の剣~

 

どうにも釈然としない手順とアクセント

12:11頃から今回のパターンの解説がはじまる。つづいて、ハイハットだけを叩いて手順を確認する。説明してくれているとおりパラディドルディドル(RLRRLL)が含まれる手順となっている。

(13:20-)

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手順はおっしゃる通りなのだが、どうにも釈然としないのが、3拍目の左左の1つ目だけ、および4拍目の右右の2つ目だけにアクセントがついていること。スティックコントロールに自信がないとでてこない発想だ。わたくし個人的には、やりにくいのでできれば避けたい感じの手順となっている。映像では非常にスムーズで簡単そうにみえたので最初は次のような手順かと思ったがこれではMushangaのパターンはできません

(注:この手順ではありません)

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3拍目の左左の1つ目だけ、および4拍目の右右の2つ目だけにアクセント、という絶妙なスティックコントロールはやはり彼の超絶スキルを如実に示していると思われる。アクセント+直後の非アクセントを片手でスムーズにプレイしている様子は、こちらの以前の記事でも確認した。

Mushanga実奏

さて手順がわかり、十分に慣れたところでドラムキット上で手を移動して実際のMushangaの曲中のパターンを演奏する。

(14:02-)

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タムの音程でX字の音符が置いてあるところは、タムのリム(枠)を叩いてカチカチ鳴らすことを示す。時折、X字の音符の箇所でもリムではなくて普通にタムの打面を叩いている場合もあるが上記譜面では示していない。どちらを叩いても弱くゴーストノートとして演奏する部分なのでその時の気分で無問題。

人間工学的にも優しいパターン

タムが印象的なこの曲中パターンでは、前段でハイハットだけで確認したアクセントの場所を強く意識する必要はなさそうだ。むしろ実奏する場合には曲中パターンのほうが理解しやすい。2拍目後ろ2つが右右となっているのが非常に合理的で、3拍目のスネアアクセントを左手で打つことができる。ドラムキット上でタムやハイハットをアレコレと使った複雑な音の流れが聞こえるパターンなのに、無理な姿勢をとったりする必要がない。もはや人間工学的にも優しいパターンなのである。

こうして彼のプレイをじっくり見てみると、典型的なスーパードラマーとは違って、プレイしている見た目としてそれほどの派手さはないように思える。しかし見た目で興味を引くドラマーだけがスーパーなドラマーではない。自分のもしくは自分のバンドのアートを表現できればよいのだ。わかる人にはわかるでもヨシ、わかる人でさえもわからないでもまたヨシ!人々が許す限り2020年もそんな投げやりな姿勢で過ごしていきたい。 

もう Jeff "Tain" Watts: San Jose Jazz Fest で失敗しない!!

前回のWynton Marsalisの曲にてドラムを担当した彼に引き続き登場していただこう!彼の名はJeff "Tain" Watts!カタカナで書くとジェフ "テイン" ワッツとなり、この字面のパッと見の印象で真ん中の「テイン」を「ティン」と発音してしまうことも人によってはあるようなので注意だ!

前回の記事はコチラ 

Jeff "Tain" Watts: San Jose Jazz Fest

それではこちらのSan Jose Jazz Festでのプレイを確認してみたい。

最初は両手でカウベルを叩くラテン風グルーヴ。極めてゴキゲンである。これはなんとしてもマネしたい!と思い立ち、楽譜にしてみたところこうなった!

(0:00- など)

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初見した印象からしてみると、カウベルを16分音符ですべて埋めていないのは意外だった。しかしこの両手カウベルパターンだと、楽譜におこしても映像を見てもどうも手順がわかりにくい。

映像後半に大きなヒントが!

映像後半で、右手カウベルで左手スネアで同じ手順でプレイしてくれている。そのパターンでの左手をカウベル上に持ってくれば上記の最初のパターンができあがるはずだ。助かった!映像後半の手順がわかりやすい部分のパターンはコチラ。RL手順も載せてドン!

(3:01 など)

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それでもなお、楽譜では映像の見た目が盛り込めないのでちょっとピンと来ないかもしれない。映像で明確にわかる本パターンのポイントは、右手がカウベルとフロアタムを行き来していることだ。これは本映像のカウベルのパターンにおいて常に保持されているので、この右手パターンをベースとして左手で間を埋めるという発想でプレイすると彼の手癖により近づけるだろう。

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このヒントによって幸い手順が判明したので、一番最初のパターンにもどって手順を書くとこうなる。これでなんとかマネできそうである!

(0:00 など)

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ラテン風のクラーベ感をあきらめるか否か

また左足ハイハットに注目してみると、ちょっと変則的なので本パターンの難易度を跳ね上げてしまっている。グルーヴを形作る主要な要素ではないので実奏の際には省略してしまうという手もある。それでもやはり、ラテン風のクラーベ感(オスティナート感)を醸し出すために鳴っていて欲しいリズムではある。ラテン風のクラーベ感を醸し出せるからこそ、四肢のコーディネーションが比例して難しくなるので悩ましいところだ。

その他素敵パターン

その他にスネアのアクセント位置が異なるパターンも登場する。1拍目2つ目の16分音符と、4拍目にスネアでアクセントをつけているのが相違点である。左手はスネアの代わりにハイハットを時折かすめていたりもする。

(3:17 など)

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またライドシンバルとクローズドリムショットによるこんな素敵なパターンも。

(1:32 など)

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ドラムクローズアップ映像をたくさん見るとイイね

映像があると手順やセッティングが明らかになるのでいいね。音だけだと、セッティングがどうなっているか仮説を置いて、プレイしている様子を強くイメージしないと具体的な手順やフレーズの発想の理解が難しかったりするので。今回で言えば、カウベルとフロアタムがすごく近くて右手が常に行き来していることは音だけではわからなかっただろう。ドラムクローズアップの映像を若いころにもっとたくさん見れていたら、私はどれほど回り道を回避できたのか。ミュージシャンのプレイ映像に手軽にアクセスできるデジタルネイティブがうらやましい!このブログでなんども書いている心からの思いなのであった。

酒と泪と男と Wynton Marsalis - Autumn Leaves

今回は当ブログおそらく初となるジャズドラム!Wynton Marsalisの1987年リリースのアルバムMarsalis Standard Time, Vol.1からご紹介。ドラムを担当するのはJeff "Tain" Wattsだ。 

スタンダード・タイム Vol.1

スタンダード・タイム Vol.1

 

シンプルかつ強引に1から8まで一つずつ増えていっている

当アルバムから、スタンダード中のスタンダードAutumn Leavesを確認する。しかしテーマの構成のアレンジがまったくスタンダードではない。曲のアタマからドラムはこのような形だ!

(0:00-)

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なお4ビートジャズを楽譜にする場合は一般的にはこの倍の書き方、つまり上記の1小節分を、テンポ2倍の2小節分として記載するものと思うが、ここではトリックを分かりやすくするためテンポ半分の書き方をした。swingの指定もあいまいになるので無しとした。

余りお目にかからない小節全体にかかる3連符、5連符、6連符、7連符、そのさらに内側に3連符が入ってくる。楽譜にして見てみると複雑なのだが、実際は見た目より単純な発想である。曲をいちど聴いてみればすぐにわかるはず。そう、シンプルかつ強引に1から8まで一つずつ増えていっているのである。ライドシンバル(およびベース)の主要なビートだけ書き出すとこのようになる。

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テーマの終わりで少しずつ減ってもとに戻る

ライドシンバル8回の高速4ビートでテーマの終わりまでくると、こんどは少しずつ減っていくようになっている。

(0:19-)

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ライドシンバル(およびベース)の主要なビートだけ書き出すとこのようになる。

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8-6-4-3-2。ここでテーマのアタマに戻ってまた1-2-3-4-5-6-7-8。ありそうでなかった構成だ。思いついても実際にはやらないであろう構成をやってしまっているのは、スタンダード過ぎて飽きてしまったミュージシャンたちの貫禄のなせるわざ!

忍耐が要求されるドラム採譜

本曲のような特殊なことがあれば別であるが、ジャズのドラムって楽譜に起こしたりどうこうしたりし難いところがある。別ジャンルと比較して自由に演奏されることが多く、採譜が困難な上、そのようなインプロビゼーションを正確に書き起こしてもあまり意味をなさないからだ。それでもなお、20年以上も前だがドラムマガジンMiles DavisのアルバムFour & Moreの中の曲だったか、ジャズドラム一曲丸ごと完全な楽譜が掲載されていたのを思い出した。しかも自由奔放でお馴染みのTony Williamsのプレイ。採譜する労力を知るほどに、これがいかに忍耐が要求される仕事であったか想像に難くない。自分のようにワンオペでなければそうでもないのかな。当ブログは月刊とは言えそろそろワンオペがつらくなってきたぞ!