HBのとってもくわしいドラムレビュー

HBのとってもくわしいドラムレビュー

ドラムスコHBがさまざまな楽曲のドラムプレイをとってもくわしく解説する

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結論:Prince - Everywhere が想像以上に凄い

やあ!いよいよ暑くなってきて夏はすぐそこ、と思へば寒が戻り、衣替えすべきかそうでないか迷う季節ですね。


さて今回は、昨年惜しくも亡くしてしまったPrinceのアルバム「The Rainbow Children」からもう一曲紹介である。 楽器をほとんど所有しないわたしがシグネチャースネアを所持している、JBことJohn Blackwellのプレイを再確認するのはこの曲「Everywhere」。John Blackwellの摩訶不思議アドベンチャーを体験せよ!

 

レインボー・チルドレン

レインボー・チルドレン

 

 

以前の記事はコチラ。

yujihb.hatenablog.com

 
曲の始まりは、透き通るRhodesに乗せておねえさんの歌が透き通る。そこへベースが割り込んでいく。そしてデジタルかつ野蛮なオーケストラヒットが入ったら、ドラムのフィルインからイントロがスタート!

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特筆すべきは曲中で基本パターンとなっている5小節目以降のこのパターンである。非常に独特である。左足のハイハットが全て8分裏であれば、ありそうなパターンではあるが、ここでは2拍目裏でなくアタマに踏んでいて、ラテン風のようなそうじゃないような一風変わったものとなっている。一体全体どんなトレーニングを積んだらこうなってしまうのか、もはや不可解である。こんなに独特なのにヨレたりせず迷い無くプレイされているので、JBのなかでは自然なプレイなのかもしれない。

テンポがかなり速いので2拍目の右足ダブルもそうとうに大変だ。すくなくともわたしはこのスピードで一曲をとおしてキープできないと宣言しよう。堂々たる敗北宣言だ!



お次は、たいへん彩りがありエキサイティングな内容となっているドラムソロを確認!

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1・2小節目は6連符だけで押し切るタイプのソロ。6連符の1個目と6個目にアクセントをつけ、タムを叩いたりシンバルを叩いたりして変化を付ける。2小節目では、とても人間とは思えないところで左足のハイハットを踏んでいるが、ハイハットオープン+キック→即時ハイハットクローズ、をプレイするときの両足の動きがこんな感じであるために踏んでしまっているだけと思われるのであまり気にしなくてよいだろう。

4小節目ではJBの得意技、フロアタム右手とオープンハイハット左手の術が思わず飛び出す。5小節目、6小節目にかけては、フロアタム右手とオープンハイハット左手、スネア右手とオープンハイハット左手、をポリリズミックに高速で繰り返すフレーズが刺激的である。譜面上赤字にしている音符が、バスドラではなくフロアタム右手となっているのがポイントである。

そして8小節目、怒涛のスネア連打でドラムソロが締めとなる。2拍目は普通に6連打だと思ったのだが、スローで聞いてみたところさらにもう1打スネアの音があり、なんと7回叩いていることがわかった。7連符としてもよいが上記楽譜では32分音符4つで書いている。いずれにせよオルタネート手順で力いっぱいスネア連打をしてもらえばOKである。



そして曲のアウトロに入る直前の部分。これまた大変なことになっている。

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1・2小節目が基本パターン部分。3・4小節目がアウトロに入るためのウワモノのキメの部分である。この3・4小節目のキメに呼応して変化したドラムがご注目ポイントだ。このテンポで実現してしまうものだから、楽譜の見た目の印象とは違ってほとんど真似が出来ないプレイとなっている。何を言っているのかわからねーと思うが、フィルインだとか一時的なパターンの変化だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ基本パターンから変化しすぎて両足に革命が勃発しているといった状況である。


突然話し変わるが、先日私のバンドが初のワンマンライブを決行した。「ここで使わなきゃいつ使う」とばかりに普段スタジオに持っていかないJBのシグネチャースネアを持参。一般的なスネアの口径14インチよりも口径が小さく(13インチ)、少し胴が深い(6.5インチ)、そして何よりもアピールするのが胴に貼り付けてある巨大な「JB」のマークである。

普段のライブではライブハウスに置いてあるスネアを借りて使っており、ライブハウスによってはヘッドやスナッピーベルトがバカになってて調整が効かなかったりする場合もある。その点やはり自分のスネアを持参しているとひとつ安心。先日のワンマンライブではJBのスネアでJBをイメージしてプレイしたが、果たしてお客さんに届きましたかどうか?!

 

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テイルズ・オブ・ Tower of Power - Oakland Stroke...

前回の記事、Jeff BeckのScatterbrainにてパラディドルに異常なほどこだわりを見せたところで、ソリッドなパラディドルでお馴染みの彼を紹介しようじゃないか!

特筆すべきプレイヤーとして挙げられることが非常に多い、Tower of PowerのドラマーDavid Garibaldiだ!

 

彼を一躍有名にしたのはもちろんアルバム「Back To Oakland」の1曲目「Oakland Stroke...」(曲名の後ろのピリオド3コを忘れずに!)。また、同アルバムの11曲目の「Oakland Stroke」も同じ曲だ!

 
当アルバムは、雑誌Modern Drummer Magazineの投票で「ドラマーが聴くべき最も重要なレコーディング」の一つとして選ばれたこともあるらしいぞ!


楽曲のジャンル、バンドの分類というものは本当にさまざまであるが、Tower of Powerのジャンルをオークランドファンクと呼ぶ人もいる。ただのファンクとは呼ばずにそう呼ぶ原因、その微妙な差異を生み出しているのはDavid Garibaldiのプレイではないだろうか。そんな違いの分かるあなたにお送りする本曲のプレイがコチラ。

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冒頭はスネアだけの軽めのフィルインでサラサラと。続いてのドラムパターンがご注目。これはただの手癖やノリ一発のパターンではない。彼がいろいろとアタマをひねって、ホーンのリフのアクセントにスネアのアクセントが来るように、パラディドルを組み合わせカニカルにパターンを作ったのである(と本人が言っていたと記憶している)。そのため、パッと見、パッと聴きでなんとなくプレイできるようにはできていない。楽譜に書いて流れを理解した上でプレイしなければならない。

本曲は曲の構成やキメが少しランダムなように聞こえて、みんなで適当にやってるんじゃないかという印象がある。ドラムパターンの1小節目4拍目と2小節目1拍目のオープンハイハットと、「プワップワッ」ってなギターのスライドプレイとでタイミングを合わせているのが少し目立つ一方で、ギターと同じ「プワップワッ」てのを別のタイミングでオルガンでもプレイしているので非常に紛らわしい。ドラムを採譜するのに時間がかかったじゃ無いか!しかし、何度か聞いてみるとランダムではなく、決まった位置でプレイされており、ドラムも決まったパターンを決まった構成でプレイしていることがわかる。

 


直後の流れがコチラ。

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決まった4小節のドラムパターンを繰り返し、4小節に一回ドラムフィルインが入るという固定された形となっている中、譜面の赤字の音符のところ、ここだけを一部スネアに変化させている。あー細かい!芸が細かい。そうこうするうちに、わずか52秒の本曲はフェードアウトして行くのであった。こんなに短い曲なのに長らく話題に上がり語り継がれるというというのは驚くべきことである。

 


先日Tower of Powerのライブにいったバンドメンバーによると、現在もDavid Garibaldiのソリッドなテクニックは衰えておらず、メチャメチャ凄腕だったとのことであった。調べてみるとなんと現在70歳!

ドラムって、いくつになっても続けられるのだなあ、体力が多少衰えたとしても聴く人を魅了する事ができるのだなあなどと思い、やがて老いていくわたしは少し安心した次第である!

面接官「特技は Jeff Beck - Scatterbrain とありますが?」

今回はJeff Beckの1975年リリースのアルバム「Blow by Blow」(発表当時の邦題は「ギター殺人者の凱旋」だったらしい)から、アノ楽曲をくわしく確認だ!
 

ブロウ・バイ・ブロウ

ブロウ・バイ・ブロウ

 

 

ドラマーはもちろん本ブログで何度か取り上げた、巨匠Richard Baileyだ!

 

巨匠のプレイを解説した記事はコチラや

コチラを参照ください。

 

当アルバムでは、荒削りながら最も勢いのあるRichard Baileyのプレイを聞くことができる。若くしてすでに巨匠の貫禄。アルバムのなかでも、ドラムプレイが気になる曲といえばそう「Scatterbrain」。9/8という少し変わった拍子で聴く者を魅了しているのがコチラのプレイである。

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冒頭はテンポ無し(Tempo rubato)でドラムソロ。テンポ無しでやってるなーと思っていると、いつの間にやら3小節目からIn Tempoで9/8が始動する。3小節目後半はちょっとグダグダになりつつも、4小節目からは本曲の基本パターンが登場している。7小節目からは、運指練習のような怪しいギターのメロディが始まり、ドラムはこのパターンの繰り返しとなる。


この基本パターンを聞いてみると、ハイハットオープンのアクセントが16分裏にあったり、小節の一番最後にはゴーストノート的な3連符がパララと置いてあったりで、まずはこう思うのではないか。パラディドル(右左右右左右左左等、ダブルストロークをいれた手順)を駆使して、さぞかしパラディドルディドルパラパラディドルパラパラパララしているのだろう、と。しかし今回採譜してみてわかったのだが、最後の3連符のRLLを除き、なんとほぼオルタネート(右左交互に叩くこと)で構成されていたのだ!長年謎に包まれていた手品のタネが今ここに明かされました。

 

スネアとハイハットだけを取り出して手順を書くとこのようになる。

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ハイハットオープンのアクセントは左手で叩くことになる。もし右手ハイハット、左手スネアに固定してパラディドルでこなそうとすると、4拍目のスネア3つを打つことができず辻褄が合わないのである。2拍目のスネアのアクセントと同時にハイハットの音がしないことを発見したのが大きなヒントとなった。


そして直後の展開でハイハットでなくライドシンバルを使ったパターンに変わるところがコチラ。

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上記譜面の4小節目(9/8に戻ったところ)から右手がライドシンバルになる。右手をライドシンバルの上空に保持し、左手がライドシンバルに届かないとなると、さすがにオルタネートというわけにはいかない。最初のハイハットの基本パターンとは違って、ここは聞いた印象のとおり右手ライドシンバル、左手スネアに固定してパラディドルで処理している。スネアとライドシンバルだけ取り出して手順を書くとこのようになる。

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このあたりのプレイにおいては、左足で踏み鳴らし続けるハイハットを聞き逃す訳にはいきません。以前取り上げたコチラにも登場する巨匠の得意技である。

 

3小節目、ギターのダブルチョーキング風の(ヘンな)キメの12/8の小節からこの左足ハイハットは始まっている。音量は極めて小さく僅かにしか聞こえないが、これにより効果的にグルーヴがキープされていることが感じ取れる。スネアのゴーストノートと同じ発想である。そしてやはり真似するのはちょっと体力がいるので、まずは体力作り、走り込みから始めなければならないことも感じ取れる。

 

この部分に限らず、曲中ライドシンバルで刻む部分では必ずこのように左足でハイハットを刻んでいるので単純に足癖なのであろう。巨匠に近づくためにも、ぜひ身に付けたい癖のひとつであることは間違いない。